コラム:廃棄物分野でのカーボンニュートラルとは?
2022/09/07
日本は、2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。この「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けて、現在、脱炭素社会への取り組みが進められています。
カーボンニュートラルは、他にも「脱炭素」「カーボンゼロ」ともいい、地球上の温室効果ガス(GHG)の排出を極力抑えつつ、排出量と吸収量・除去量を均衡させることで、排出量を実質的にゼロ(正味ゼロ、ネットゼロ)にすることを言います。
今回は廃棄物分野でのカーボンニュートラルについて見ていきます。
廃棄物分野でのカーボンニュートラル
廃棄物分野の温室効果ガス排出量は、20119年度に二酸化炭素換算で約3,970万トンあり、日本全体の約3%。近年の廃棄物分野のGHG排出量はほぼ横ばいで推移しており、2019年度の内訳をみると、約76%(約3,030万トンCO2)を「廃棄物の焼却・原燃料利用に伴うCO2排出」が占めます。ただ、廃棄物の原燃料利用等に伴う排出の割合は増加しつつあり、エネルギー分野等でのGHG排出削減に間接的に貢献しています。
2050年までのカーボンニュートラル達成に向け、廃棄物の焼却や埋立処分に伴う温室効果ガス排出を抑制するほか、収集運搬過程における燃料使用、中間処理施設の稼働に伴う電力使用等によるエネルギー起源CO2等の排出抑制など、総合的な対策が求められています。
2020年12月、経済産業省が中心となり関係省庁と連携し、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定されました。洋上風力、水素、自動車・蓄電池など、成長が期待される14の重要分野について実行計画の策定、具体的な見通しが示されています。廃棄物分野については「資源循環関連産業」内で記載がされています。
グリーン戦略【資源循環関連産業】
技術の高度化、設備の整備、低コスト化を推進する。
① Reduce・Renewable
– 「バイオプラスチック導入ロードマップ」を踏まえ、更なる再生
利用拡大に向けた、バイオマス素材の高機能化や用途の拡大・低コスト化に向けた技術開発・実証を推進。リサイクル技術の開発・高度化、設備の整備、需要創出等を実現。
– 2030年までにバイオプラスチックを約200万トン導入
② Reuse・Recycle
– リサイクル性の高い高機能素材やリサイクル技術の開発・高度化、回収ルートの最適化、設備容量の拡大に加え、再生利用の市場拡大を実現。
– 廃棄物処理施設からCO2等を回収しやすくするための燃焼制御等の技術開発や実証事業等を通じたスケールアップ、コスト低減等を図り、実用化・社会実装に向けた取組を推進。
③ Recovery
– 低質ごみ下での高効率エネルギー回収を確保するための技術開発を推進。
– 焼却施設から遠方の利用施設に熱供給を行うための蓄熱や輸送技術の向上・コスト低減を促進。– 今後のごみ質の大きな変化に伴うメタン化施設の大規模化を見据えた技術実証事業を推進。
– 廃棄物の広域的な処理や廃棄物処理施設の集約化を推進。
また、2021年8月には、環境省が廃棄物の分野での温暖化ガス排出量を、2050年にゼロにするための工程表の案を公表しました。この中では、廃棄物削減の徹底やリサイクル強化により、排出量を13年度比で8割以上削減、残りは「CCUS」技術を導入し排出量ゼロにつなげるとしています。
廃棄物分野でのカーボンニュートラル実現に向けた取り組み・技術
廃棄物業界において、カーボンニュートラルの実現に向けて多くの取り組みや技術の導入が推進されています。ここではその取り組みや技術の一部をご紹介します。
CCUS(CCS/CCU)
発電所、ごみ処理場(清掃工場)などから大量に放出される、排気ガスに含まれる二酸化炭素を分離し回収する取り組みが進んでいます。回収した二酸化炭素を、地中などに貯留し隔離する「CCS」という方法と、資源として有効利用する「CCU」という方法があり、合わせて「CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)」と総称されます。
分離・回収
二酸化炭素を分離し回収するには、現在は科学吸収法と呼ばれる技術が主流ですが、他にも複数の技術があり、世界中で研究開発が進められています。
・科学吸収法:CO2と液体の化学反応を利用して分離回収する方法
・物理吸収法:CO2を液体中に溶解させて分離回収する方法。吸収能は液体に対するCO2の溶解度に依存する
・個体吸収法:個体吸収材によるCO2分離回収技術。アミン等を含浸させた多孔質材(低温分離用)や、CO2吸収能のある個体材(高温分離用)に吸収させる方法等がある
・物理吸着法:ゼオライトや金属錯体などの多孔質固体への昇圧・降圧(圧力スイング)や昇温・降温(温度スイング)などによる吸着・再生操作
・膜分離法:ゼオライト膜、炭素膜、有機膜など分離機能を持つ薄膜を利用し、その透過選択性を利用して混合ガスの中から対象ガス(CO₂)を分離する方法
★DAC(Direct Air Capture)
大気から二酸化炭素を回収する取り組みも進んでおり、低濃度CO2を直接回収する技術を「DAC(Direct Air Capture)」と呼びます。DACで回収したCO2に対してCCSを行うことをDACCSと呼び、もともとは大気中にあったCO2を地中に固定したことになるので「ネガティブエミッション」とされています。
実用化に向けて、更なる低コスト化、所要エネルギーの削減が必要。アメリカ、カナダ、スイスの企業での開発が進んでいるとされますが、国内でも複数の企業、研究機関で取り組みが進んでいます。
貯蓄
回収した二酸化炭素はパイプラインや船舶などにより、地下800メートルより深くにある砂岩などでできている「貯蓄層」に貯留します。貯留層は、隙間の多い砂岩などの地層で、地震が起きてもCO2が漏出しない場所が選ばれます。北海道苫小牧市、広島県大崎上島町などでCCSの実証実験が行われてきました。
有効利用
回収した二酸化炭素炭素の利用方法としては、「直接利用」する方法と「資源として利用」する方法があります。
直接利用する方法としては、農作物や藻類の光合成促進、炭酸水やドライアイス、溶接などに使われます。その他、油田で原油を回収するのに使用する「EOR(石油増進回収:Enhanced Oil Recovery)」があります。これは、油田にある油層にCO2を圧入すると、原油を効率的に回収することができます。
資源として有効利用する方法としては、CO2を化学品、燃料、鉱物などの原料にするカーボンリサイクルがあります。製造できる物質が多岐に渡ることから、様々な企業が参入、研究開発が進めらています。ただ、資源として利用するには、二酸化炭素を他の物質に変換するため、その際エネルギーが必要となります。再生エネルギーを使用するなど、、CO2を排出させない方法が研究が求められます。
廃棄物発電の導入
環境省が発表している代表的な取り組みに、一般廃棄物および産業廃棄の焼却施設における廃棄物発電の導入があります。焼却施設の新設や基幹改良のタイミングで、高効率発電設備を導入することにより、電気の使用に伴うエネルギー起源CO2排出量の削減を目的としています。
この取り組みの進展により、以下のような実績が出ています。
■一般廃棄物発電実績
発電電力量:231kWh/t(2013年度)から284 kWh/t(2018年度)に増加
省エネ量(原油換算):44万kL(2018年度)
CO2排出削減量:80.8万トン(2018年度)
■産業廃棄物発電実績
発電電力量:3,748GWh(2013年度)から4,373GWh(2018年度)に増加
省エネ量(原油換算):15.7万kL(2018年度)
CO2排出削減量:28.8万トン(2018年度)
産業廃棄物発電実績については、2014年度から2018年度の時点で、すでに2030年度の目標水準を上回っています。今後も、さらなる結果が期待できるでしょう。
いかがでしたでしょうか?
今回は廃棄物分野でのカーボンニュートラルについて見てきました。
カーボンニュートラルは、温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す取り組みで、国内でもでカーボンニュートラル実現に向けて取り組みが実施されています。廃棄物業界においても例外ではなく、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが進められています。