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コラム:海底のプラスチックごみをAIで検出 新技術の仕組みと意義
2026/09/04

海に流出したプラスチックごみの一部は、海面を漂うだけでなく、やがて深海底へ沈んでいきます。しかし、光が届かず、人が簡単には立ち入れない深海では、ごみがどこに、どのくらい蓄積しているのかを調べることは容易ではありません。

こうした課題に対し、海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2026年9月3日、深海調査の映像からプラスチックごみなどを自動で検出・計数するAIシステム「DeepLitterAI(ディープリターAI)」を開発したと発表しました。

AIを活用することで、これまで研究者が長時間かけて行っていた映像確認を効率化し、海底ごみの分布をより広い範囲で把握できる可能性があります。本記事では、DeepLitterAIの仕組みと開発された背景、海洋プラスチック問題における意義を解説します。

深海に沈むプラスチックごみ

海洋プラスチックごみというと、海岸に漂着したペットボトルや海面を漂うレジ袋を思い浮かべる人が多いかもしれません。実際には、海へ流出したごみの多くが海中を移動し、最終的に深海底へ沈むと考えられています。

深海は海洋の大部分を占めていますが、その環境を継続的に調査するには、有人潜水調査船や無人探査機などが必要です。さらに、撮影した映像に映るごみを把握するためには、研究者が映像を一時停止しながら一つずつ確認し、種類や数を記録しなければなりません。

海底には岩石や堆積物、生物なども映り込むため、ごみとの見分けが難しい場合があります。遠くに小さく映ったごみを見落とさず、同じごみを重複して数えないことも必要です。調査映像が増えるほど解析にかかる時間と人手が大きくなり、広域調査を進めるうえでの課題となっていました。

DeepLitterAIとは

DeepLitterAIは、深海の映像からプラスチック袋、ペットボトル、空き缶などのごみを検出し、種類ごとの個数を自動的に数えるAIシステムです。

開発にあたりJAMSTECの研究グループは、過去40年以上にわたって撮影してきた深海映像から1万2,029枚を抽出し、画像データセット「J-Litter」を構築しました。このうち4,197枚には海底ごみが映っており、残りの7,832枚は、ごみを含まない海底や生物などの画像です。

ごみが大きく鮮明に映った画像だけでなく、画面の10%以下の大きさで映ったものや、ごみと間違えやすい海底地形・生物の画像も学習させています。その結果、従来のAIモデルと比べて、プラスチック袋やペットボトルなどを検出する精度が約1.6倍に向上しました。

さらに、動画内で同じ物体を追跡する機能を組み合わせています。探査機やカメラが移動しても、同じごみを別のものとして二重に数えることを防ぎ、映像内のごみをより正確に計数できる仕組みです。

専門家の目視とほぼ同等の結果

研究グループは、日本周辺の水深860~5,600メートルで撮影された実際の調査映像を使い、DeepLitterAIの性能を検証しました。

AIが検出したごみの数は、専門家が目視で確認した結果との誤差が約10%で、ほぼ同等の正確さを示しました。解析速度は人による作業の平均2.1倍、最大3.1倍となり、映像を確認する時間を大幅に短縮しています。

JAMSTECによると、これまで手作業で1か月近くかかっていた100時間分の映像も、DeepLitterAIを活用すれば数日で解析できるとしています。海底ごみが集中する場所を効率的に特定できれば、各海域の汚染状況の把握や、長期的な変化の監視にも役立ちます。

対象は目に見える大きさの「マクロごみ」

DeepLitterAIが主に対象としているのは、科学的にはおおむね2センチメートルから1メートルの「マクロごみ」です。微細な「マイクロプラスチック」を直接検出する技術ではありません。

また、このシステムは映像からごみを発見し、その数を把握するためのもので、ごみを自動的に回収するものでもありません。AIの導入によってすぐに海底がきれいになるわけではなく、まずは汚染の規模や分布を把握し、対策の効果を検証するための技術と位置付ける必要があります。

現在のAIは主に日本周辺海域の画像で構築されています。海底の地形や生物、映像の撮影条件は海域によって異なるため、今後は海外の研究機関とも連携し、世界各地の画像を学習させることが課題です。

海洋プラスチック対策に期待される効果

海洋プラスチック汚染を減らすには、実施した対策によって実際にごみが減ったのかを継続的に確認する必要があります。しかし、深海底のごみの量や分布を把握できなければ、対策の効果を客観的に評価することも困難です。

DeepLitterAIによって大量の映像を高速かつ一定の基準で解析できるようになれば、海底ごみの分布図の作成や、経年変化の比較が進む可能性があります。現在交渉が続けられている国際的なプラスチック汚染対策についても、その効果を検証するための基礎データとして活用が期待されています。

一方で、海底に沈んだごみは回収が難しく、作業によって海底の生態系を傷つけるおそれもあります。そのため、回収技術の開発だけでなく、陸上から海へごみを流出させない取り組みが欠かせません。

企業に求められるプラスチックごみの流出防止

事業活動で発生したプラスチックを適切に管理することは、海洋流出を防ぐ第一歩です。屋外で保管する場合は、風や雨による飛散・流出を防げる容器や保管設備を使用し、排水口や河川へ流れ込まないようにします。細かな破片や梱包材、樹脂原料なども放置せず、定期的に点検・清掃することが重要です。

廃プラスチック類を産業廃棄物として処理する場合は、必要な許可を持つ収集運搬業者・処分業者へ委託し、委託契約書やマニフェストによって処理の流れを確認します。リサイクルできるものと処分が必要なものを分別し、発生量そのものを減らすことも海洋汚染の防止につながります。

海底ごみの調査技術が進歩しても、すでに流出したプラスチックをすべて回収することは現実的ではありません。DeepLitterAIによる「見える化」と、企業や自治体、消費者による発生抑制・適正処理を組み合わせていくことが重要です。

まとめ

JAMSTECが開発したDeepLitterAIは、深海調査映像からプラスチックごみなどを自動検出し、専門家の目視とほぼ同等の精度で計数する技術です。解析時間を短縮することで、これまで把握が難しかった深海底のごみ分布を広域かつ継続的に調査できる可能性があります。

ただし、AIはごみを回収する技術ではありません。海洋プラスチック問題の解決には、調査によって汚染状況を把握するとともに、製品の使用量削減、再使用・再資源化、廃棄物の適正な保管と処理を徹底し、海へ流出するごみを減らすことが必要です。

参考: JAMSTEC「深海底のプラスチックごみを自動検出・計数するAI『DeepLitterAI』を開発」