コラム:リチウムイオン電池の回収強化|収集車火災の原因と対策
スマートフォンやモバイルバッテリー、ワイヤレスイヤホン、コードレス掃除機など、リチウムイオン電池を使用した製品は身近な場所に数多くあります。
一方、使用済みのリチウムイオン電池が可燃ごみや不燃ごみ、プラスチックごみに混入し、ごみ収集車や廃棄物処理施設で発火する事故が全国的な問題となっています。
こうした状況を受け、国はリチウムイオン電池の分別回収、メーカーによる自主回収、処理施設の安全対策などを強化しています。
本記事では、リチウムイオン電池によって収集車火災が発生する原因と、家庭・事業所における正しい処分方法、国が進めている回収強化策について解説します。
リチウムイオン電池による火災事故が増加
環境省によると、リチウムイオン電池などに起因する廃棄物処理施設や収集運搬車両での発煙・発火等は、2023年度に全国の市町村で8,543件発生しました。
ここでいう件数には、重大な火災だけでなく、発煙や小規模な発火なども含まれています。それでも、ごみ処理の現場で毎日のように異常が発生している計算となり、深刻な課題です。
参考:環境省「リチウムイオン電池による火災防止シンポジウムの開催について」
リチウムイオン電池に関する事故は、家庭や事業所での使用中だけに発生するものではありません。廃棄された後も、次のような場所で火災につながる可能性があります。
- ごみ収集車
- ごみの積み替え・保管施設
- 不燃ごみや粗大ごみの破砕施設
- プラスチック資源の選別施設
- 廃棄物処理施設
- リサイクル施設
- スクラップヤード
火災が発生すると、収集作業員や施設従業員、周辺住民の安全が脅かされるだけでなく、収集車や処理設備の損傷、ごみ処理の停止、復旧費用の発生などにもつながります。
なぜリチウムイオン電池が収集車火災を引き起こすのか
リチウムイオン電池は、小型・軽量でありながら多くの電気を蓄えられることが特徴です。その反面、強い衝撃や圧力、高温などに弱く、内部が損傷すると異常発熱や発火につながる危険性があります。
ごみ収集車の中では、積み込んだごみを圧縮して運搬します。可燃ごみや不燃ごみにリチウムイオン電池が混入していると、圧縮板によって電池が押しつぶされ、内部で短絡して発火することがあります。
NITE(製品評価技術基盤機構)も、モバイルバッテリーなどが燃えるごみに混入すると、ごみ収集車内で押しつぶされて発火・破裂するおそれがあると注意喚起しています。
参考:NITE「モバイルバッテリー ごみ収集車で発火・破裂」
ごみ処理施設でも同様に、破砕機や選別機による衝撃で電池が損傷する場合があります。周囲に紙やプラスチックなどの可燃物が多いと、電池から出た火が燃え移り、大規模な火災に発展する可能性があります。
電池が入っていると気づきにくい製品に注意
リチウムイオン電池は、電池単体だけでなく、さまざまな充電式製品に内蔵されています。
特に注意が必要な製品は次のとおりです。
- モバイルバッテリー
- スマートフォン・タブレット
- ノートパソコン
- ワイヤレスイヤホン
- スマートウォッチ
- 携帯用扇風機
- 電子たばこ・加熱式たばこ
- コードレス掃除機
- 電動工具
- 電動歯ブラシ
- 電気シェーバー
- 携帯ゲーム機
- デジタルカメラ
- 電動アシスト自転車のバッテリー
外見がプラスチック製品や小型家電に見えるため、電池が入ったまま一般ごみやプラスチックごみに出されるケースがあります。
製品に「Li-ion」「Li-Po」「リチウムイオン」「リチウムポリマー」などの表示がある場合は、リチウムイオン電池が使用されています。表示が見当たらない場合も、充電して繰り返し使用する製品には電池が内蔵されている可能性があります。
国がリチウムイオン電池の回収を強化
国は、火災防止と資源循環の両面からリチウムイオン電池の回収・処理体制を見直しています。
2023年度にリチウムイオン電池等の分別回収を実施していた市町村は、全国の約75%にとどまっていました。
環境省は2025年3月、家庭ごみの標準的な回収方法を示す指針を改訂し、リチウムイオン電池等を独立した分別区分として設定しました。
さらに同年4月には、すべての市町村に対して、家庭から排出されるリチウムイオン電池等の安全な回収・処理体制を構築するよう通知しています。
今後は、公共施設や小売店などの回収ボックスに加え、コンビニエンスストアなど利便性の高い場所での回収、回収拠点のマップ化、複数自治体による広域回収なども進められます。
政府は2025年12月、「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」を策定しました。
この対策では、2030年までにリチウムイオン電池に起因する重大火災事故ゼロを目指し、国内に十分なリサイクル体制を構築することを目標としています。
主な対策は次のとおりです。
- 国民・事業者への周知強化
- 安全性を満たさない製品の監視
- 製造事業者等による自主回収・再資源化
- 市町村の分別回収体制の構築
- 膨張・変形した電池の処理方法の整備
- 収集運搬・保管時に他の廃棄物と区分する仕組みの検討
- 産業廃棄物の委託時に電池の含有を伝える仕組みの整備
- X線やAIを活用した選別設備の導入支援
- 発火検知・散水・警報設備の導入支援
- リチウムやコバルト、ニッケルなどの再資源化
参考:環境省「リチウムイオン電池総合対策パッケージの策定について」
2026年4月からは、資源有効利用促進法に基づく自主回収・再資源化の対象として、電池を容易に取り外せない次の3品目が追加されました。
- モバイルバッテリー
- スマートフォンなどの携帯電話用装置
- 加熱式たばこデバイス
製造・輸入事業者による回収と再資源化を進め、一般ごみへの混入防止と重要鉱物の国内循環につなげることが目的です。
家庭から出たリチウムイオン電池の捨て方
家庭で不要になったリチウムイオン電池は、自治体によって回収方法が異なります。
主な処分方法には、次のようなものがあります。
- 自治体の「電池類」「危険ごみ」などの収集日に出す
- 公共施設の回収ボックスへ持ち込む
- 小型家電回収ボックスへ持ち込む
- 家電量販店などのリサイクル協力店へ持ち込む
- メーカーや販売店の回収サービスを利用する
可燃ごみ、不燃ごみ、プラスチックごみ、缶・びんなど、自治体が指定していない区分には出さないでください。
取り外し可能な電池は、端子部分に絶縁テープを貼り、ショートしない状態にします。一方、スマートフォンやワイヤレスイヤホンなどの電池一体型製品は、無理に分解せず、製品のまま指定された回収先へ持ち込みます。
なお、膨張・変形・液漏れ・破損している電池は、通常の回収ボックスでは受け入れていない場合があります。押したり穴を開けたりせず、自治体、メーカー、販売店などへ事前に相談してください。
事業所から出たリチウムイオン電池の処分方法
会社や店舗、工場、建設現場など、事業活動に伴って不要になったリチウムイオン電池や電池使用製品は、産業廃棄物として扱われるのが基本です。
事業所から出た電池を、家庭向けのごみ集積所や自治体の家庭用回収ボックスへ出すことはできません。家電量販店などに設置された一般消費者向けの回収ボックスも、事業系の電池を受け入れていない場合があります。
一般社団法人JBRCでは、事業者が小型充電式電池の回収を依頼する場合、事前の排出者登録が必要と案内しています。また、JBRCの回収対象は会員企業製の電池などに限られるため、すべての電池を回収できるわけではありません。
JBRCの対象外となる電池、大型バッテリー、海外メーカー製品、破損・膨張した電池、電池を取り外せない機器などは、リチウムイオン電池を適正に取り扱える産業廃棄物処理業者へ相談します。
廃棄物の種類は、電池や製品の材質・構造によって異なる場合があります。委託前に処理業者へ電池の種類、数量、状態、製品への内蔵状況を伝え、許可品目と受入条件を確認することが重要です。
企業が行うべき保管・排出対策
事業所では、リチウムイオン電池が他の廃棄物に混入しないよう、社内の排出ルールを決めておく必要があります。
具体的には、次のような対策が有効です。
- 充電式製品を廃棄する前に電池の有無を確認する
- 一般の不燃ごみや廃プラスチック類と混ぜない
- 取り外した電池の端子を絶縁する
- 電池一体型製品を無理に分解しない
- 正常な電池と膨張・破損した電池を分ける
- 衝撃や高温、雨水を避けて保管する
- 保管量を把握し、長期間ため込まない
- 処理業者へリチウムイオン電池の含有を事前に伝える
- 委託契約書やマニフェストの内容を確認する
- 従業員へ分別方法を周知する
清掃担当者だけでなく、情報システム部門、総務部門、設備管理部門などともルールを共有することが重要です。
特にオフィス移転や店舗閉鎖、設備更新では、モバイルバッテリー、パソコン、スマートフォン、コードレス機器などが一度に排出されるため、通常の不用品と混載しないよう注意してください。
リチウムイオン電池の適正処分は火災防止と資源循環につながる
リチウムイオン電池をごみ収集車や廃棄物処理施設の火災から守るためには、排出段階での分別が最も重要です。
回収設備や検知技術が強化されても、すべての電池を処理工程で見つけることは容易ではありません。家庭や事業所が正しい排出方法を確認し、他の廃棄物へ混入させないことが事故防止の基本となります。
また、リチウムイオン電池には、リチウム、コバルト、ニッケルなどの重要な資源が含まれています。適切に回収・再資源化することは、火災防止だけでなく、限りある資源の有効利用にもつながります。
リチウムイオン電池は専門業者へ相談を
事業所から排出されるリチウムイオン電池や電池内蔵製品は、種類や状態によって廃棄物の区分、保管方法、処理できる業者が異なります。
特に、膨張・変形・破損した電池や、電池を取り外せない電子機器は、通常の回収ルートでは受け入れてもらえない場合があります。
「どの廃棄物区分になるか分からない」「大量の電池をまとめて処分したい」「ほかの不用品と一緒に回収してほしい」といった場合は、リチウムイオン電池を取り扱える産業廃棄物処理業者へ事前に相談してください。
処理業者へ依頼する際は、電池の種類、数量、破損や膨張の有無、製品に内蔵されているかどうかを伝え、許可品目や受入条件を確認することが大切です。