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コラム:コククジラの減少が示す海洋環境の変化とは?北極海で進む異変と気候変動の影響
2026/07/17

コククジラの減少が世界で注目されている

2026年7月、北太平洋を回遊するコククジラの個体数が大きく減少していることが世界的に報じられました。

報道によると、2019年頃には約2万頭と推定されていた個体数が、2026年には約1万3,000頭未満まで減少したとされています。海岸に漂着した個体の中には、著しくやせ細った状態のものも確認されており、餌不足との関連が指摘されています。

コククジラの減少は、単に一つの生物種が減っているという問題ではありません。その背景には、北極海や亜北極海で進む環境変化があり、海洋生態系全体に起きている異変を示すニュースとして注目されています。

コククジラとはどのような生き物か

コククジラは、北太平洋を長距離にわたって移動する大型のクジラです。

東部北太平洋の個体群は、冬になるとメキシコのバハ・カリフォルニア半島周辺で繁殖や出産を行い、春から夏にかけてアラスカ沖、ベーリング海、チュクチ海などの餌場へ移動します。往復の移動距離は非常に長く、世界でも有数の回遊を行うクジラとして知られています。

コククジラは海底の泥や砂を吸い込み、その中に含まれるヨコエビなどの底生生物をこし取って食べます。夏の餌場で十分な脂肪を蓄えることが、長距離の回遊や繁殖、子育てを支えるうえで重要です。

北極海周辺で進む環境変化

コククジラの減少に関わる要因として注目されているのが、北極海や亜北極海における海氷、生産力、餌資源の変化です。

気候変動に伴って海氷の面積や形成期間が変化すると、海中に届く光の量や植物プランクトンの発生時期、海底へ沈む有機物の量も変わります。こうした変化は、コククジラの餌となる底生生物の量や分布にも影響を与えます。

海氷が減れば、コククジラが利用できる海域が広がる場合もあります。しかし、海が開ける期間が長くなることが、必ずしも餌の増加につながるわけではありません。海洋の温度や生産力、海流、餌生物の構成が変わることで、これまで安定していた餌場の質が低下する可能性があります。

漂着した個体の中にやせたクジラが多く見られたことから、十分な栄養を確保できなかった可能性が指摘されています。長距離を回遊するコククジラにとって、餌場での栄養不足は生存率だけでなく、繁殖率や子育てにも影響します。

個体数は自然環境に応じて変動してきた

コククジラの個体数は、近年になって初めて変化したわけではありません。

東部北太平洋のコククジラは、商業捕鯨によって一時は大幅に減少しましたが、その後は保護の進展によって回復しました。一方で、過去にも個体数の減少や大量漂着が確認されています。

このため、今回の減少を気候変動だけで説明することはできません。クジラの個体数は、餌資源の増減、海洋環境、繁殖状況、疾病など、さまざまな要因によって変動します。

ただし、近年の北極圏では海氷や海水温、生態系の構成が急速に変わっています。従来の自然変動に加えて、人為的な気候変動が海洋環境へ影響を与えている可能性を考慮する必要があります。

気候変動以外の影響も無視できない

コククジラを取り巻くリスクは、餌不足だけではありません。

回遊ルートや沿岸域では、船舶との衝突、漁具への絡まり、海洋騒音、化学物質やプラスチックによる汚染などの影響も考えられます。海洋開発や航路の拡大が進めば、クジラと人間活動が接触する機会も増加します。

特に北極海では、海氷の減少によって船舶が通行できる期間が長くなる可能性があります。航行量の増加は、衝突事故や騒音、油流出などのリスクを高めます。

コククジラの減少について考える際は、気候変動による餌場の変化と、人間活動による直接的な負荷を分けて考えるのではなく、複数の要因が重なる問題として捉えることが重要です。

コククジラの減少が示す海洋生態系の異変

コククジラは広い海域を回遊し、海底の生物を利用して生きています。そのため、個体数や栄養状態の変化は、餌場となる海域の環境状態を知る手掛かりになります。

北極海やベーリング海の環境が変化すれば、影響を受けるのはコククジラだけではありません。魚類、甲殻類、海鳥、アザラシなど、同じ海域に生息する多くの生物にも影響が広がります。

さらに、海洋生態系の変化は漁業資源や沿岸地域の産業にも関係します。特定の生物の減少を単独の問題として見るのではなく、海全体で進んでいる変化の一部として捉える必要があります。

海洋環境の変化を継続的に観測する重要性

コククジラの減少について正確に理解するには、個体数だけでなく、栄養状態、出産数、漂着数、餌資源、海水温、海氷などを継続的に調べる必要があります。

クジラは広大な海域を移動するため、短期間の調査だけでは変化の全体像を把握できません。米国やカナダ、メキシコなどによる国際的な調査と情報共有が重要です。

また、漂着した個体の死因を調べることも、個体群に何が起きているのかを知るうえで欠かせません。栄養不足、感染症、船舶との衝突、漁具への絡まりなどを分析することで、対策を検討しやすくなります。

私たちに求められる環境対策

コククジラの個体数減少は、遠い海で起きている問題のように見えます。しかし、その背景にある気候変動や海洋汚染は、私たちの暮らしや企業活動とも深く関係しています。

企業には、温室効果ガス排出量の削減、省エネルギー、資源循環、プラスチック使用量の見直し、廃棄物の適正処理などが求められます。サプライチェーンを含めて環境負荷を把握し、継続的に改善することも重要です。

個人の生活でも、使い捨てプラスチックを減らすことや、ごみを適切に分別すること、省エネルギーを意識することが環境負荷の低減につながります。

一つひとつの取り組みだけで海洋環境の変化を止めることはできません。しかし、社会全体で温室効果ガスや海洋汚染物質を減らすことは、生態系への長期的な負担を抑えるために必要です。

まとめ

北太平洋のコククジラは、2019年頃と比べて個体数が大きく減少したと報告されています。背景には、北極海や亜北極海で起きている餌資源や生態系の変化があると考えられています。

一方で、個体数の変化には自然変動も関係しており、気候変動だけが原因であると断定することはできません。船舶との衝突、漁具への絡まり、海洋汚染、騒音など、人間活動による複数の負荷も考慮する必要があります。

コククジラの減少は、一つの生物種だけの問題ではありません。北極海を中心とした海洋生態系が変化している可能性を示す重要なサインです。継続的な調査と国際的な保全活動に加え、社会全体で気候変動や海洋汚染への対策を進めることが重要です。