コラム:タイ沿岸でジュゴンが激減|海草減少が示す海洋環境の異変
海洋生態系の危機:タイで進むジュゴン(海牛)個体数激減の実態と原因
近年、東南アジアの海洋生態系を象徴する大型海洋哺乳類「ジュゴン(海牛)」の個体数が、タイで急速に減少していることが国際的に報じられ、環境分野で大きな関心を集めています。
本記事では、政治的な論点には踏み込まず、生態系の変化・環境要因・私たちの生活との関係という観点から、ジュゴン減少の背景と今後の課題を整理します。

ジュゴンとは?海の生態系を支える「指標種」
ジュゴンは温暖な浅海域に生息する草食性の海洋哺乳類で、海草(シーグラス)を主食としています。
特にアンダマン海沿岸や熱帯域の浅瀬は、かつてジュゴンにとって理想的な生息環境でした。
注目すべき点は、ジュゴンが「指標種(インディケーター・スピーシーズ)」と呼ばれる存在であることです。
つまり、ジュゴンの減少は単なる一種の問題ではなく、海草藻場の衰退=海洋環境全体の劣化を示すサインでもあります。
なぜタイでジュゴンが急減しているのか
1. 海草藻場の急速な消失
最大の要因とされているのが、ジュゴンの主食である海草の減少です。
海草藻場は、以下のような複合的な要因で失われています。
◆沿岸開発による海底環境の改変
◆海水温の上昇や異常気象
◆濁水や栄養塩流入による水質悪化
海草は一度失われると自然回復に時間がかかり、ジュゴンは餌を求めて移動せざるを得なくなります。
2. 栄養不足による衰弱と死亡
近年報告されているジュゴンの死亡例の多くは、外傷ではなく栄養不足による衰弱が原因とされています。
これは、見た目には分かりにくいものの、海草量の減少が深刻なレベルに達していることを示しています。
3. 人間活動との距離の近さ
浅海域に生息するジュゴンは、以下のような人間活動の影響を受けやすい生物でもあります。
◆船舶との接触
◆漁具への偶発的な絡まり
◆観光利用による生息地の攪乱
これらは意図的なものではなくても、長期的には個体数減少につながるリスクとなります。
ジュゴン減少が示す「見えにくい環境問題」
ジュゴンの個体数減少は、単なる野生動物保護の話題ではありません。
その背景には、海洋生態系の基盤である海草藻場の衰退があります。
海草藻場は、
◆二酸化炭素を吸収・固定する「ブルーカーボン」
◆稚魚や甲殻類の重要な生育場
◆海底の安定化による沿岸防災機能
といった役割を持ち、気候変動対策や漁業資源の維持とも深く関係しています。
ジュゴンの減少は、こうした多面的な機能が失われつつあることを私たちに伝えています。
世界的にも共通する沿岸生態系の課題
タイで起きている問題は、特定の地域に限ったものではありません。
世界各地で、
◆サンゴ礁の白化
◆マングローブ林の減少
◆海草藻場の消失
といった現象が確認されており、沿岸生態系の脆弱化はグローバルな環境課題となっています。
その中で、ジュゴンは「静かに進行する環境変化」を可視化する存在として、国際的な注目を集めているのです。
私たちの生活とどうつながっているのか
一見すると遠い国の自然問題に見えるかもしれませんが、実は私たちの暮らしとも無関係ではありません。
◆海洋環境の悪化は、漁業資源の減少につながる
◆沿岸生態系の喪失は、気候変動リスクを高める
◆観光資源としての自然景観にも影響を与える
ジュゴンの減少は、持続可能な海の利用をどう考えるかという問いを、私たちに投げかけています。
まとめ:ジュゴンは「海からのメッセージ」
タイで進むジュゴンの個体数激減は、
◆特定の生物種の問題ではなく
◆海草藻場を含む海洋生態系全体の危機を示す現象です。
環境問題というと大きく聞こえがちですが、ジュゴンの事例は、
「自然環境は静かに、しかし確実に変化している」ことを分かりやすく伝えてくれます。