コラム:クリーンエネルギー移行が急加速──新興国で広がる「リープフロッグ現象」とは
クリーンエネルギー移行が急加速──新興国で広がる「リープフロッグ現象」とは
2025年、気候変動対策が停滞するニュースが目立つ一方で、世界ではクリーンエネルギーへの移行がこれまでにない勢いで進んでいる。太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入が各国で急拡大し、発電構成は大きな転換点を迎えている。
■ 再生可能エネルギーが石炭火力を初めて上回る
2025年上半期、世界の発電量に占める再生可能エネルギーの割合が、史上初めて石炭火力を上回った。
国際エネルギー機関(IEA)は、今後5年間で再生可能エネルギーの発電能力が 約4600ギガワット増加し、ほぼ倍増する と予測している。これは中国・EU・日本の発電容量を合計した規模に相当する。
この拡大を支える最大の要因は、太陽光発電のコスト低下だ。設備価格は長期的に下がり、化石燃料を上回る経済性を持つ地域も増えている。
大排出国も太陽光へシフト。ただし化石燃料依存は続く
■ 中国:世界最大規模の導入で圧倒的首位
中国では、2024年末までに設置された風力・太陽光の発電設備容量が 1400ギガワット超 に達した。これはアメリカが稼働させる再エネ設備の総量を上回る規模だ。さらに 500ギガワット超の新規設備が建設中 とされ、導入ペースは群を抜いている。
■ 米国:政策後退下でも太陽光導入が拡大
米国は一時期クリーンエネルギー政策が後退したものの、太陽光・風力の導入は止まらない。新規発電設備の多くを再エネが占め、太陽光の新規導入量は中国に次ぎ世界第2位。
税額控除制度を背景に導入が進んだが、制度がなくても設置スピードとコスト優位性が依然として魅力となっている。
■ インド・EUも導入が加速
世界最多人口のインドでは、太陽光と風力の新規導入が過去最高を更新。
EUも発電量の再エネ比率を 2029年までに約43%へ引き上げる 目標を掲げている。
■ それでも化石燃料は依然「主力」
ただし、クリーンエネルギーへの移行は万能ではない。
◆中国は石炭生産量が10年ぶりの高水準
◆米国でも石炭火力への依存が一部で継続
◆インドの成長を支えるのは依然化石燃料
◆EUでは干ばつによる水力不足を補うため化石燃料が微増
再エネ導入の勢いと、化石燃料依存の現実が混在している状況だ。
新興国で進む「リープフロッグ現象」
今、最も注目されているのは、南米・アフリカ・東南アジアなどの新興国や途上国で広がる急速な再エネ導入だ。
■ 既存インフラが弱い国ほど一気に次世代へ
ノルウェーのコンサルティング企業ライスタッド・エナジーは、この現象を「リープフロッグ(段階飛び越え現象)」と表現する。
化石燃料インフラが整っていない国々が、中国製の安価な太陽光パネルや蓄電池、風力タービンを採用し、短期間で再エネ主力の電力構成へ移行している。
■ 各国の急成長例
◆ネパール:EV保有が少なかった数年前から、中国製EVが新車販売の 76% を占める市場へ急成長
◆パキスタン:太陽光発電が6年間で電源構成の 0% → 30% へ急拡大
◆チリ:アタカマ砂漠に世界最大級の太陽光発電所を整備
◆ギリシャ:丘陵地や島しょ部で太陽光パネルを大量導入
◆ハンガリー:政府の補助金政策により太陽光が電力システムを急変させる規模に成長
こうした国々では、化石燃料に大規模投資をする前に、低コストの再エネを一気に導入できる環境が整っている。
再エネ拡大の課題は「間欠性」への対応
太陽光や風力は、天候に左右される「間欠性」が避けられない。
そのため、
◆蓄電池(バッテリー)
◆送電網の強化
◆需給調整システム
などのインフラ整備が欠かせない。
一部の専門家は、「2050年まで化石燃料発電は増加する」と予測する一方、ライスタッド社は再エネの低コスト性が途上国のシステム転換を後押しすると指摘する。
■ まとめ:世界は「二つの現実」を同時に進んでいる
この記事が示す通り、
✔ 再エネ導入は歴史的なスピードで進む
✔ しかし化石燃料依存も依然強固
という二つの動きが世界で同時進行している。
特に新興国で進む「段階を飛び越えたエネルギー転換」は、今後の世界の電力構造を大きく変える可能性がある。
気候危機への対応が求められるなかで、再エネ導入を加速させる国々の動向はますます重要性を増している。