コラム:地球初の「気候の臨界点」到達―サンゴ礁が壊滅的危機に直面
地球規模で進行する「サンゴの死滅」
エクセター大学を中心とする「グローバル・ティッピング・ポイント報告書」によると、世界の平均気温が産業革命前より1.2℃上昇した時点で、サンゴ礁は不可逆的な臨界点に達したとみられます。すでに地球の平均上昇幅は約1.4℃に達しており、1.5℃を超えるのは「今後10年以内」と警告しています。
この臨界点を超えると、サンゴ礁はもはや「有意な規模で存続できない」との見解が示されました。報告書は、「地球の平均気温を1.2℃まで、可能なら1.0℃まで急速に戻さなければならない」と強調しています。
世界最悪の白化現象が進行中
2023年1月から世界中で発生している第4次・過去最悪のサンゴ白化現象では、80か国以上の海域にある80%超のサンゴ礁が影響を受けました。これは観測史上最大規模であり、研究者は「未知の領域に入った」と指摘します。
報告書の筆頭執筆者であるティム・レントン教授(エクセター大学)は、「臨界点はもはや“未来のリスク”ではない。温暖水域サンゴ礁の大量死滅はすでに始まっている」と述べました。
地域社会への影響と反論の声
世界のサンゴ礁は海洋生物の約4分の1が生息する重要な生態系であり、漁業・観光・沿岸保護などを通じて数億人の生活を支えています。報告書では、特にカリブ海域で海洋熱波や病害により多様性が低下し、「崩壊に向かっている」と警告されています。
一方、オーストラリア・クイーンズランド大学のピーター・マンビー教授は、「サンゴ礁の衰退は事実だが、2℃の上昇でも生き残る可能性があるサンゴも確認されている」とし、過度な悲観論に警鐘を鳴らしています。
「もし“サンゴ礁はもう助からない”と社会が思い込めば、保全努力を放棄してしまう危険がある」とも述べました。
WWF「保全の重要性はかつてないほど高い」
報告書の共同執筆者でWWF-UKの科学顧問マイク・バレット博士は、「今こそサンゴ礁保全が最重要課題。もはや従来のやり方では間に合わない」と指摘。温暖化の影響が比較的軽い「避難所(レフュジア)」の保護を急ぐべきだと訴えました。
「将来、気候が安定した世界でサンゴが再生できるよう、いま“再生の種”を守ることが不可欠です」と述べています。
国際サンゴ礁学会のトレイシー・エインズワース副会長も、「サンゴ礁は形を変えながら存続していく可能性がある」とし、「生態系がどのように再編され、多様な生命を支え続けられるかを理解することが今後の課題」と述べました。
氷床・アマゾンも危険水域に
報告書は、南極西部やグリーンランドの氷床も「臨界点に極めて近づいている」と警告。陸地に接する氷の融解は海面上昇を引き起こします。
また、アマゾン熱帯雨林も気候変動と森林破壊の複合的な圧力により、想定以上のスピードで崩壊リスクが高まっているとしています。
「ポジティブな転換点」への希望
ただし報告書は、悲観だけではありません。電気自動車の普及や再エネの拡大など、社会が自発的に温室効果ガス削減へ向かう「ポジティブなティッピングポイント」も存在すると指摘します。
「今や人類は、地球システムのさらなる崩壊を防ぐための競争に突入している」とレントン教授は締めくくりました。