その他

お知らせNEWS


コラム:英国の気候政策が転換点に?気候変動法撤廃公約と投資・外交への影響
2025/10/03
2025年10月、イギリスの保守党党首ケミ・バデノック氏が「次期政権では気候変動法(Climate Change Act 2008)を廃止する」と公約したと報じられました。
この発言は、英国が2008年以来築いてきた気候政策の基盤を覆す可能性があるとして、国内外で強い反発と議論を呼んでいます。本稿では、バデノック氏の主張とその背景、国内外の反応、そして国際的な影響や日本への示唆について詳しく解説します。

1. 気候変動法とは何か

「気候変動法」は2008年に制定され、世界初の法的拘束力を持つ温室効果ガス削減枠組みとして注目されました。具体的には以下を柱とします。

  • ◆炭素予算制度:政府に5年ごとの排出上限(carbon budgets)の設定を義務化

  • 独立助言機関(CCC:Climate Change Committee)の設置:科学的根拠に基づく助言と監視を行う

  • 2050年ネットゼロ目標:長期的に温室効果ガス排出を実質ゼロにする方向性を明示

この法は英国だけでなく国際的にも先進的な制度とされ、多くの国が参考にしました。

2. バデノック氏の撤廃公約と背景

バデノック氏が撤廃を掲げる理由として、以下が挙げられています。

  • 経済コストの負担:家庭や中小企業の電気・暖房費を押し上げていると主張

  • 政策の柔軟性確保:法による縛りが経済成長を阻害しているとの見解

  • 実効性への疑問:英国単独での厳格な削減が地球規模で大きな影響を与えないという論点

さらに、同氏は2025年3月の演説で「2050年ネットゼロは不可能」と述べ、既に長期目標の撤回姿勢を示していました。今回の公約は、この方針をさらに先鋭化させたものといえます。

3. 国内の反応と党内の亀裂

強い批判

  • ◆元首相テリーザ・メイ氏は「壊滅的な誤り(catastrophic mistake)」と非難。

  • 元COP26議長アロク・シャルマ氏らも強く反発。

  • 企業団体CBIは「投資の基盤を揺るがす」と警告。

環境・産業界の反応

  • Solar Energy UKは「再エネ投資の不確実性を高める」と声明。

  • スコットランドの気候団体も「無謀」と強い抗議。

一方で、成長重視の経済団体からは「エネルギーコストを下げる」として歓迎の声もあります。党内外で路線対立が鮮明になりつつあります。

4. 国際的な影響

信頼性の低下
英国は先進国の中でも気候政策のリーダーと見なされてきました。法の撤廃は、国際交渉での信頼を損ない、他国に悪影響を与える恐れがあります。

投資への逆風
気候政策の不透明化は、再生可能エネルギーやグリーン投資のリスクを高め、資本流入を鈍らせる可能性があります。


貿易リスク(EU CBAM)

EUは2026年から炭素国境調整措置(CBAM)を本格導入予定です。英国が排出規制を後退させれば、輸出企業が相対的に不利になる懸念があります。ただし、現時点で即時の影響が確定しているわけではなく、制度が本格化する中で「不利に働く可能性が高い」という段階です。

5. 日本への示唆

政策の一貫性が投資を左右
日本でも脱炭素投資を呼び込むには、政策の安定性が不可欠です。英国の事例は「予見性を欠いた後退が投資減速を招く」ことを示しています。

グリーン技術競争力の強化
英国が後退すれば、日本が再エネや水素・蓄電池分野で先行する余地が拡大する可能性があります。


国際協調の重要性

英国の信頼低下は逆に、日本が「持続可能なパートナー」として国際社会で存在感を強める好機にもなります。


国内議論への影響

一方で、日本国内でも「英国ですら後退している」という声を利用して、政策見直しを求める勢力が現れる可能性があります。政策論争は今後さらに激化するでしょう。

6. 今後の展望と懸念

  • 科学的根拠を軽視する後退は、長期的リスクを拡大。

  • 適応策や補完政策が不十分なまま規制を緩めれば、被害は拡大。

  • 世論や国際圧力により「廃止公約」が修正・撤回される可能性も。

  • 英国の動きが他国に“後退の口実”を与える懸念もある。

まとめ

英国の「気候変動法撤廃公約」は、国内経済・投資環境だけでなく、国際的な気候外交・通商・脱炭素競争にまで大きな影響を及ぼす可能性があります。
日本にとっては「政策の一貫性を保ち、信頼あるパートナーとして国際社会で存在感を高める」ことが重要です。英国の動きを反面教師としつつ、技術革新と投資促進を両立する道筋を明確に描くことが求められています。