コラム:ゴルフ場の近隣でパーキンソン病リスクが2倍に?地下水と農薬の関連性に警鐘
2025年5月、米国医師会雑誌(JAMA)に掲載された最新の研究が、全米で大きな注目を集めています。それは「ゴルフ場の近隣に住む人々が、パーキンソン病を発症するリスクが著しく高い」という衝撃的な内容でした。特に地下水を生活用水として利用している地域では、その傾向がより顕著だといいます。
この記事では、この研究の背景や調査内容、パーキンソン病の基礎知識、そして今後の課題までを詳しく解説します。

パーキンソン病とは?その影響と現状
パーキンソン病は神経系に影響を及ぼす進行性の疾患で、主に手足の震え(振戦)や動作の緩慢さ、筋肉のこわばり(筋強剛)などの症状を引き起こします。アメリカでは推定110万人が罹患しており、世界では約1000万人が影響を受けているといわれています。
2025年には新たに約9万人が新規診断され、2030年までにアメリカ国内の患者数は120万人に達すると予測されています。
ゴルフ場周辺に住むことで発症リスクが126%増加
研究を主導したのは、ブリタニー・クルジャノフスキ博士(Dr. Brittany Krzyzanowski)らのチーム。アメリカ中西部のミネソタ州とウィスコンシン州を対象に、224の水道供給地域、711の公共井戸、さらに1991年から2015年までのパーキンソン病の症例を網羅的に調査しました。
その結果──
「ゴルフ場から1マイル(約1.6km)以内に住む住民のパーキンソン病発症率は、6マイル(約9.7km)以上離れて住む住民に比べて126%高い」
という統計的に有意なリスク上昇が判明しました。
地下水の使用と発症率の関連性
さらに深刻なのは「水源」による影響です。研究チームは次のように指摘しています。
◆ゴルフ場のある水道供給区域で地下水を利用している住民のパーキンソン病発症率は、ゴルフ場がない地域と比べて約2倍。
◆公共井戸を利用している住民の発症リスクは、私設の井戸利用者よりも49%高かった。
つまり、農薬が土壌から地下水へ浸透し、それを長年にわたり飲用することで健康リスクが高まる可能性があるのです。
農薬と神経変性疾患の関係
この研究では特定の農薬名には言及していませんが、過去の研究では「パラコート」や「ロテノン」といった農薬に含まれる成分が、神経毒性を持ちパーキンソン病との関連性があることが指摘されてきました。
農薬の空中散布や流出による環境曝露が、神経系への長期的影響をもたらす可能性があるという見解は、今後さらなる検証が求められます。
リスクの広がり──特定地域で高い発症率
パーキンソン病は、地理的な要因とも強く関係しています。パーキンソン財団によると、以下の地域では特に症例数が多いと報告されています。
◆米国中西部の「ラストベルト」
◆カリフォルニア州南部
◆テキサス州南東部
◆ペンシルベニア州中央部
◆フロリダ州全域
また、CDC(アメリカ疾病対策センター)の統計では、ユタ州におけるパーキンソン病による死亡率は全米最高の12.4%。カリフォルニア州では死者数が4,289人と最も多いとされています。
研究者と専門医が発する警鐘
神経内科専門医でありパーキンソン財団の医療アドバイザーでもあるマイケル・オークン博士は、SNS上で次のように警告しています。
「この研究は重要な警告です。特にゴルフ場周辺で公共の地下水を利用している住民は、明確にリスクが高まっています。これは単なる個人の問題ではなく、医療制度、経済、社会全体に波及する公衆衛生問題です」
彼はまた、「症状が出てからの対症療法ではなく、原因究明と予防政策への転換が急務だ」とも訴えています。
なぜ予防対策が進まないのか?予算配分の偏り
パーキンソン病に関する医療費・研究費のうち、実に97〜98%が治療と介護に費やされ、予防に充てられる資金はわずか2〜3%にとどまるとされています。
しかし、今回のように農薬や水質、居住環境との関係性が明らかになりつつある中、今後は政策転換が求められるフェーズに入っているのは明らかです。
今後の課題と展望
今回の研究結果を受け、以下のような課題と対策が浮かび上がります。
◆農薬成分と神経疾患の関係性を追跡する長期的な研究の継続
◆地下水の水質監視の強化と住民への情報公開
◆ゴルフ場や農地の農薬使用履歴の透明化
◆高リスク地域での啓発活動と検診支援
まとめ|生活環境と健康リスクの見直しを
ゴルフ場という一見「自然豊かで安全」な環境が、実は見えないリスクをはらんでいる可能性がある──この研究はその事実を明確に示しています。
今後も研究を重ね、環境と健康の関係をより正確に解明していくことが必要不可欠です。そして、行政や住民、事業者が協力し合いながら、より安全な地域づくりを目指す必要があります。