コラム:金融排出量で読み解くファッション業界の脱炭素最前線
――日本企業が今すぐ始めるべき5つのアクション
はじめに
ファッション産業は原材料調達から廃棄までの工程で世界の温室効果ガス(GHG)の 約8〜10% を排出するといわれます。
ところが最近は、生産現場の排出だけでなく 「金融排出量(Financed Emissions)」――銀行融資や投資によって間接的に生じる排出――にも注目が集まっています。金融排出量は企業のサステナビリティ報告書では見えにくく、「隠れた排出源」とも呼ばれます。日本でも PCAF Japan への参加金融機関が増え、企業側の開示要請が強まっています
1. 金融排出量とは?
◆定義:金融機関が融資・投資・引受を通じて間接的に関与する先の排出量。
◆位置付け:GHG プロトコルでは「スコープ3 カテゴリ15(投資)」に含まれます。
◆算定基準:PCAF が策定した標準に従い、与信額や株式保有比率を排出係数に掛け合わせて算出
2. グローバルで進む可視化の流れ
ファッション業界では「製造は脱炭素化したが、資金が化石燃料企業へ流れていた」というケースが問題視されています。主な動きは次のとおりです。
◆サステナビリティ連動債の発行
例:Chanel が 2020 年に 6 億ユーロを調達。目標未達ならクーポン(利率)が上昇する設計で真剣度を示した。◆ESG 連動ローンの拡大
Prada や Burberry などが銀行団と契約。排出削減目標に応じて金利が変動する。預金・年金のシフト
欧州の高級ブランドを中心に、エシカルバンクやグリーンファンドへ資金を移行する動きが加速。
これらの取り組みは“グリーンウォッシュ”を避けるため、金融面まで一体で管理しようという潮流を示しています。
3. 日本の現状と課題
3-1 金融機関側
◆PCAF Japan:都銀・地銀を含む 30 行以上が参加し、算定方法の統一を進めている。
◆金融庁の取り組み:2025 年 2 月に ESG 評価・データ提供機関の行動規範を公表し、情報の質と透明性向上を促進。
3-2 企業側
◆大手ではファーストリテイリングなどが詳細なサステナビリティデータを開示する一方、金融排出量は「検討中」とする企業が多い。
◆主な課題
1.複数行にまたがる融資・預金データの把握が難しい
2.自社年金資産の運用実態を追跡しづらい
3.中小ブランドは専門人材・コストが不足
4. 日本企業が取るべき 5 ステップ
メインバンクのポートフォリオ確認
化石燃料向け融資比率を公開資料や ESG 評価でチェックし、改善計画を要請。余剰資金と年金のグリーン化
グリーンボンドやサステナブル投信への組み替えで、間接排出を削減。PCAF 準拠の試算を開始
小規模でも試算し、社内 KPI に組み込んで「見える化」する。サプライチェーン金融の活用
買掛金早期払いとサステナビリティ連動ローンを組み合わせ、取引先の脱炭素投資を支援。情報発信と対話強化
金融排出削減の取り組みを統合報告書やウェブサイトで公開し、投資家・取引先からの信頼を獲得。
5. まとめ
金融排出量は「資金の CO₂」とも言える重要指標です。製造工程やサプライチェーンだけでなく “お金の流れ” を脱炭素化 することで、初めて真のネットゼロに近づきます。日本のファッション企業は、資金調達や預金運用まで視野に入れた脱炭素戦略を早急に策定し、グローバル市場での競争力を高めましょう。