コラム:惑星の健康を守るための新ガイドライン:気候変動対策の再考
2025年6月、国際的な環境専門家テレサ・コーディ氏によって提案された「惑星的健康(Planetary Health)」のための新たなガイドラインは、これまでの産業革命的な思考が環境破壊の根本原因であることを指摘し、持続可能な未来のために地域主導型の行動を呼びかけています。

工業時代の思考が環境崩壊を招いた
国連加盟国による「グローバル環境アウトルック(GEO)」は、サンゴの白化、種の絶滅、異常気象、氷河の融解など、地球規模で進む環境問題を報告しています。多くの人が農業やエネルギー産業、建設業が原因と捉えがちですが、記事はその背景にある「浪費の文化」と「過剰な消費」が真の問題であるとしています。
たとえば、世界では生産された食料の約35%が廃棄され、電力の67%が無駄に消費されており、建築資材の90%が経済に循環しないまま廃棄されています。建築も世界的に過剰で、住宅やオフィスの供給過多が深刻な状況です。
デジタル時代における分散型社会への転換
現代は中央集権的な工業社会から分散型のデジタル社会へと移行しています。人口は産業革命以降、10億人から78億人へと増加しており、地域ごとの持続可能な対応が急務です。
例えばイギリスのイーストパイで起きたソーラーファーム設置への住民抗議は、単なる反対運動ではなく、地域の文化・自然・農業を守ろうとする動きです。このような地域の声は、真の意味での「惑星的健康」に基づく再設計の必要性を示しています。
9つの主要分野での地域主導型アクション
1. 電力ロスの削減
送電ロスを70%から10%に削減し、ゼロエミッションのローカル電力網(スマートグリッド)へ移行。小規模な水力・風力・太陽光発電の導入を支援し、60kWh/m²未満の省エネ建築を推進。
2. 水資源の有効活用
浄水場からの漏水を抑え、家庭レベルでの水再利用システムの導入。湿地や地下水を保全し、洪水・地盤沈下・海面上昇リスクを軽減。
3. 食品ロスの削減
家庭内食品ロスを19%から0%に削減。流通・加工時のロスも16%から5%へ。地域菜園、フードシェアリング、献立支援ツールの活用を提案。
4. 化石燃料の使用削減
再生可能電力への完全移行、交通は電動化、暖房にはバイオ燃料を利用。廃棄物をエネルギー化し、地域暖房を実現。
5. 生態系の保全
2030年までに地球の30%を保護区域に指定し、2050年までに地域土地の80%を修復。森林・河川・山脈などの生態系回廊を保護。
6. 資源採掘と建設の見直し
建築物の耐用年数を100年に設定し、資材の15%以上をリサイクル品で構成。解体資材の75%を再利用し、埋立処分場の廃止と海洋汚染防止を図る。
7. 過剰建設の是正
必要な時に必要なだけ建設する考え方へ転換。高層ビル依存をやめ、密度1万/km²以下、理想は5千/km²の都市設計へ。
8. 騒音公害の解消
WHOのガイドライン(夜間40デシベル以下)に従い、都市・住宅地・海洋すべてにおける騒音低減を推進。
9. 大気汚染の対策
PM2.5年間平均5μg/m³以下、オゾン濃度25ppbv以下を目標に、建物・交通・産業ごとの排出削減を実施。
地域が変われば、地球が変わる
この新たなガイドラインは、政府主導ではなく、地域から始まるボトムアップ型のアクションを提唱しています。気候変動・環境汚染・生物多様性の危機は、中央集権的な旧態依然の仕組みでは解決できません。
私たち一人ひとりが、身近な地域でエネルギー・水・食・建築・交通を見直し、持続可能な暮らしへと転換していくことが、「惑星的健康」実現への鍵となるのです。