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コラム:パキスタンで急加速するソーラー革命|草の根から始まった太陽光発電の拡大とその課題
2025/05/09
近年、パキスタンでは世界でもまれに見るスピードで「ソーラー革命」が進行しています。
経済危機や電力不足といった深刻な課題を抱える中、国民主導で太陽光発電の導入が爆発的に拡大しつつあります。本記事では、パキスタンがいかにして急速なソーラー化を達成し、どのような社会的・経済的影響が生じているのか、そしてその経験が他国にどのような示唆を与えるのかを詳しく解説します。


急成長する太陽光発電市場|中国製パネルの輸入急増

2024年、パキスタンは世界第3位の太陽光パネル輸入国となりました。英国の気候関連シンクタンク「エンバー」の報告によれば、パキスタンは1年間で17ギガワット相当のパネルを輸入。これは前年の2倍以上にあたり、急激な成長ぶりがうかがえます。

この急拡大の背景には、以下の要因が重なっています。

◆中国製太陽光パネルの大幅な価格下落
◆電気料金の高騰
◆送電網の不安定化

これらの要素が国民に「自家発電」の選択を促し、パネル設置が爆発的に進行しました。


政府主導ではない「草の根のソーラー化」

一般的に再生可能エネルギーの導入には、政府の補助金や政策支援が不可欠と考えられています。しかしパキスタンの場合、太陽光発電の普及は政策よりも市場と国民の選択によって主導されました。

首都イスラマバードに拠点を置く「リニューアブルズ・ファースト」のプログラムディレクター、ムスタファ・アムジャド氏は次のように述べています。

「これは明らかに“ボトムアップ”の現象だ。市場が安価な太陽光パネルを求め、人々が積極的に導入を進めた」

一方で政府は一定の支援策として、太陽光パネルの輸入に対して非課税措置を実施しているものの、大規模な国家プロジェクトは行われていません。

パキスタン特有のエネルギー事情と太陽光への転換理由

[歴史的背景にある電力システムの課題]

1990年代、パキスタン政府は米ドル建てで高額な電力購入契約を結び、発電量にかかわらず発電事業者に固定の支払いを続けてきました。これにより国内電力市場は構造的な非効率に陥り、負担は国民の電気代に跳ね返る形となりました。

近年では、

◆パキスタン・ルピーの下落
◆ロシア・ウクライナ戦争による天然ガス価格の上昇
◆電力供給の不安定化(地域によっては長時間停電も常態化)

といった要因が重なり、電力コストは過去3年間で155%上昇しています。
このような状況下で、自家発電としての太陽光が急速に広まったのです。


都市と地方に広がる太陽光パネルの風景

「Google Earthでイスラマバードやラホールを見てほしい」と語るのは、ブルームバーグNEFの太陽光アナリスト、ジェニー・チェイス氏。彼女によれば、都市部の屋根のほとんどが太陽光パネルで覆われており、世界でも類を見ない密度となっているといいます。
また、農村部でも自立型の小規模ソーラーが住居周辺に設置されるなど、都市部・地方を問わず、分散型のエネルギーシステムが構築されつつあります。


太陽光革命の陰にある課題

一方、このソーラー革命には負の側面も存在します。代表的な懸念として挙げられるのが、「電力会社の収益悪化による悪循環(デススパイラル)」です。
太陽光発電が普及すると、電力会社の収入が減少し、送電網の維持コストが上昇。その結果、電力網に依存する層の電気料金がさらに上がり、さらに多くの人がソーラーに流れるという悪循環が懸念されています。
また、パネル設置には初期費用が必要であるため、富裕層と貧困層の間でエネルギー格差が拡大しているという指摘もあります。

「太陽光は資金のある人だけの選択肢で、その他の人々は依然として不安定で高価な化石燃料ベースの電力網に頼らざるを得ない」
— アシャ・アミラリ氏(開発研究センター)

熱波と電力需要の高まりが追い風に

2024年4月、パキスタンでは気温が50度近くに達するなど深刻な熱波が観測されました。この極端な気象条件により、冷房の使用が不可欠となり、結果として電力消費も急増しています。
こうした背景の中、電気代削減と安定供給を同時に実現できる太陽光発電への関心が一層高まっているのです。


世界に示すパキスタンの教訓

パキスタンのソーラー革命は、完璧な成功モデルではありませんが、次のような教訓を世界に示しています。

教訓1:再生可能エネルギーは「高コスト」という誤解を覆す

価格が十分に下がれば、再生可能エネルギーは補助金なしでも普及可能であり、特に太陽光発電は最もコスト効率の高い選択肢となり得ることを証明しています。

教訓2:送電網整備との並行が不可欠

ソーラーの急拡大にはインフラとの連携が必要不可欠。計画的な投資と制度改革なしには、持続可能なエネルギーシステムの構築は難しいといえるでしょう。

まとめ:草の根が動かした「ソーラーの奇跡」

パキスタンにおける太陽光発電の急拡大は、政府主導ではなく国民による「自発的な選択」が起点となった希有な事例です。貧困や不安定なインフラ、電気料金の高騰といった危機的状況をバネに、再生可能エネルギーが浸透する現象は、他の新興国や発展途上国にとっても大きなヒントとなるでしょう。

再生可能エネルギーの未来は、国家予算よりも、人々の選択と市場の動きが鍵を握っているのかもしれません。