コラム:カリフォルニア州でアシカの異常行動が急増|有毒藻類「ドウモイ酸」の影響とは
カリフォルニア州でアシカの異常行動が急増|有毒藻類「ドウモイ酸」の影響とは

アシカが人を襲う異常事態が続発
米カリフォルニア州南部の沿岸地域で、アシカによる人への攻撃が相次いでいます。これまで穏やかで人懐こいとされていたアシカが突如として攻撃的になる異常行動に、現地の住民や専門家たちは警戒を強めています。
背景には、有毒な藻類「ドウモイ酸」を原因とする神経障害が指摘されています。赤潮のように海中で藻が大量発生し、それを食べた魚介類を介してドウモイ酸がアシカやイルカに取り込まれているのです。
被害事例と症状
2025年3月30日、ロングビーチに住む15歳のフィービー・ベルトランさんは、泳力テスト中にアシカに襲われ右腕に複数の傷を負いました。また、サーファーのR.J.ラメンドラさんも突進してきたアシカに驚き、「悪魔のようだった」とSNSで発信。通常のアシカとは明らかに異なる行動を見せたことが確認されています。
アシカの異常行動の原因となっているドウモイ酸は、神経に作用する強力な毒素です。これにより、アシカは発作を起こしたり、頭を長時間後ろに反らすといった異常な動きを見せることがあります。
ドウモイ酸とは何か?
ドウモイ酸は、自然界に存在する神経毒で、特に赤潮など藻類の異常発生時に高濃度となりやすい傾向があります。海の表層に湧き上がった冷たい海水が栄養塩類を運び、藻の急増を促進します。
この藻を食べた小型の海洋生物をアシカやイルカが捕食することで、毒素が体内に蓄積され、神経障害や発作、呼吸困難といった症状を引き起こすのです。
環境変化と人間活動の影響
ドウモイ酸の異常増加には、気候変動や人間の活動が大きく影響していると専門家は警告しています。特に、以下の要因が挙げられます。
地球温暖化による海水温の上昇
海水の酸性化
農業排水に含まれる窒素肥料が海に流出
これらの条件が重なることで、藻の異常繁殖が引き起こされ、食物連鎖を通じてアシカなどの海洋哺乳類へと被害が波及しています。
海洋哺乳類保護センターの対応と課題
ロサンゼルスの「海洋哺乳類保護センター」では、毒素の影響を受けたアシカの保護活動を行っています。2025年初頭からのわずか5週間で、過去に例を見ない2,000件以上の通報が寄せられました。
治療には抗けいれん薬の投与や栄養管理、毒素の排出などが含まれますが、今年は症状が重く、回復までに時間がかかるケースが増えています。
例年であれば1週間程度で自力で餌を食べられるようになる個体が、今年は3週間経っても昏睡状態に近い個体が多く、専門家は生存率の低下を懸念しています。
妊娠中の個体にも影響
特に深刻なのは、治療を受けているアシカの約80%が妊娠していた点です。毒素の影響により、母体が胎児を出産せざるを得ないケースも見られています。今後、アシカの生息数全体にも影響が及ぶ可能性が高いとされています。
イルカにも被害が拡大
ドウモイ酸の被害はアシカだけにとどまりません。ロサンゼルス郡では、2025年に入りイルカの打ち上げが70頭を超え、過去最悪の事態となっています。多くのイルカは浜辺で苦しみながら発作を起こし、治療が不可能なため安楽死させざるを得ない状況が続いています。
予算と受け入れ限界
現在センターが対応できる年間治療件数は300頭まで。しかし、すでに3月末の時点で240頭を超えており、支援体制の強化が急務です。打ち上げ地点として多いのがアシカの繁殖地であるチャンネル諸島で、ここが被害の震源地となっていると見られています。
まとめ|ドウモイ酸による海洋生物の危機は今後も続くのか?
ドウモイ酸によるアシカやイルカへの影響は、単なる自然現象ではなく、人間の活動や気候変動が絡んだ「環境問題」の一端といえるでしょう。
今後もこのような被害の拡大を防ぐには、温暖化の抑制、農業排水の管理、生態系保護への投資といった包括的な対策が求められます。
海岸で異常行動を見せるアシカやイルカを見かけた場合は、決して近づかず、速やかに地元の保護団体や自治体に通報してください。