コラム:アメリカ保健福祉省で大規模レイオフ──CDC・FDAにも影響、1万人削減の波紋
アメリカ保健福祉省で大規模レイオフ──CDC・FDAにも影響、1万人削減の波紋
2025年4月、アメリカの保健福祉省(HHS)が実施した1万人規模の大規模レイオフが、食品安全や感染症対策など国民の健康に直結する機関に大きな影響を与えています。今回の人員削減は、HHSの組織改革計画の一環として進められたもので、関係者や州政府からは強い反発の声が上がっています。■CDC・FDAなど主要機関から数千人が解雇
今回のレイオフでは、以下のような重要機関で大規模な人員削減が実施されました。
◆CDC(疾病予防管理センター):約2,400人削減
◆FDA(食品医薬品局):約3,500人削減
◆NIH(国立衛生研究所):約1,200人削減
これらの組織は、感染症の監視や対応、食品・薬品の安全性確保といった国民の命を守る役割を担っており、今回の措置は今後の公衆衛生政策に深刻な影響を及ぼすとみられています。
■解雇は突然通知、混乱と困惑が広がる
解雇通知は、2025年4月2日(火)早朝から一斉に届きました。CDCの環境衛生部門に10年間勤務していた職員プレストン・バート氏は、「朝5時にメールで解雇を知らされた。部門全体が対象だった」と証言しています。
中には、オフィスに入れずIDカードが無効化された状態で突然の解雇を知る職員もおり、ビルの前では長蛇の列ができるなど現場は混乱に包まれました。
■鳥インフルエンザ・はしか対策にも打撃
FDAでは、現在拡大中の鳥インフルエンザ(H5N1)対応チームも対象に含まれており、感染拡大防止への懸念が高まっています。さらに、アメリカでは現在過去10年で最悪規模のはしか流行が起きており、CDCの対応力が問われる中での大幅な人員削減は、さらなる感染拡大を招く恐れがあります。
■ファウチ氏の後任も更迭、専門人材が流出
新型コロナ対策で知られたファウチ氏の後任として国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長に就任していたジーン・マラッツォ氏も事実上の更迭と報じられました。彼女を含む数名の幹部職員は、HHSの「インディアンヘルスサービス」部門への異動を打診されており、辞任や転職の可能性が高いと見られています。
■ケネディ長官による大規模組織再編、「非効率解消」を目的に
この大規模リストラは、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健長官が推し進める「Make America Healthy Again」政策の一環であり、HHS全体の再編が狙いとされています。
具体的には以下のような改革が進行中です。
◆職員数を8万人から6万人へ削減
◆HHS内部の28部門を15部門に再編
◆新機関「健全なアメリカ推進局(Administration for a Healthy America)」創設
◆年間180億ドル(約2兆7,000億円)のコスト削減を目指す
ケネディ長官は「HHSは非効率的な組織構造であり、官僚主義の肥大化を解消する必要がある」と強調しました。
■州政府・議会が反発、23州が連邦政府を提訴
この方針に対しては、ワシントンD.C.および23州が連邦政府を提訴。また、元下院議長のナンシー・ペロシ氏も「この改革は最も弱い立場にある市民に打撃を与え、アメリカの健康を損なう」と厳しく非難しています。
さらに、上院の保健・教育・労働・年金委員会を率いるビル・キャシディ議員(共和党)とバーニー・サンダース議員(無所属)は、ケネディ長官を2025年4月10日の公聴会に召喚し、説明責任を求める構えです。
まとめ:アメリカの公衆衛生体制に問われる変革の是非
今回のHHSによる組織再編と大規模なレイオフは、アメリカの医療・公衆衛生インフラに深刻な影響を及ぼす可能性があります。感染症対応、食品・薬品の安全管理、精神保健など、住民の生活と命に直結する分野が縮小されることで、将来のリスクへの備えが弱まる懸念もあります。
ケネディ長官が掲げる「非効率の排除」と「財政健全化」という理念のもとで進む改革ですが、今後の議会審議や州との対立が焦点となるでしょう。アメリカの公衆衛生の行方を左右するこの問題から、目が離せません。